作新アカデミア・ラボ
39/46

37たくて研究者になったわけですから。理事長:でも実際、見事に実用化や研究所のリーダーを務めて らっしゃる。私は研究者だけでなく、マネジメントの才能もすごく おありだと思います。山中:いえ、経営者だった父から、絶対におまえは経営に向いていないからやめておけって(笑)。ただ、このまま放っておくと1から100、1000へというところが、全部海外に流出してしまうんじゃと いう恐怖心があって。だから向いていないながらも、チーム作りを始めたわけです。理事長:たしかに日本の科学技術体制というのは、基礎研究と 応用・実用化研究の間に大きな断絶があって、貴重な研究成果が海外に流出してしまっている事態は危機的です。山中先生のように 研究と経営双方に高い能力をお持ちの方が、日本のiPS研究と いう重要分野に存在してくださることが何よりの救いです。山中:いえ、僕は研究者ですから、研究者は研究、経営者は経営と、僕に代わって実用化やマネジメントを担当してくれる人をいつも 虎視眈々と探してるんですが。理事長:でも、0から1の研究成果を生み出すだけでは、先生の志は満たされないんじゃないですか。山中:あ、…そうですね。理事長:先生が医師を目指された時のビジョンというのは、目の前で救われる人が現れて初めて達成されるわけですよね。山中:はい。理事長:だから先生は必死になって、そこまでは頑張ろうとされているように、私には思えます。山中:基礎研究って始めてしまうと本当に面白いんです、0から1を作るっていうのは。今まで世の中の誰もやっていなかった、誰も知らなかったことを明らかにするっていう作業は、基礎研究者にしかできない特権みたいなもので。しかも、そこでは、あらゆる失敗が許される。一方、臨床医っていうのは本当に厳しい世界で、教科書、プロトコル通りにやらないと大変なことになってしまう。理事長:違ったことをして失敗したら、患者さんの一生を変えて しまいかねませんよね。山中:だからいつも極度の緊張感がありました。基礎研究をやりだすと、そこは全部解放されて、もちろんいい成果が出ないとストレスはありますが、臨床医の時のストレスとは全然違うんですね。だから基礎研究者としては、僕は1までやったんだ。あと、1から10、100にしていくのは他の人の仕事だと。理事長:普通の基礎研究者ならそうですよね。でも、山中先生は 違った。山中:たしかにiPSに関しては、ちょっとそういう考えはなかった ですね。iPSは0から1の1が、患者さんに近いんです。もともと患者  基礎研究とは、「0ゼロから1」を生み出す仕事。 その1を100、1000と発展させ実用化するには 多様な才能や人材、つまり「チーム」の力が不可欠。—山中伸弥氏

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る