作新アカデミア・ラボ
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36山中:終身雇用や社会保障といったシステムが変わっていく中で、直線型が一番安全という構造では、もはや日本社会はなくなっています。イノベーションが次々起こり、10年、20年後がどうなって いるか本当に予測できない世の中ですから、直線型だけでなく 回旋型の人材を日本はもっと輩出していかないと。そういう意味で、アカデミア・ラボでの教育は、非常にそういうことにつながると 期待しています。理事長:先生はプレゼンテーションの最後に、必ず「うちのオールスター・キャストです」って、スタッフ全員の集合写真をパワーポイント 画面に投影されますよね。それも研究者だけでなく、ラボテクニ シャンや事務職員の方もすべて一緒に。山中:それはみんな一緒に研究に参加してくれている仲間ですから、当然です。彼らの働きや頑張りなしに、どんな研究成果も生まれませんから。理事長:そうした卓抜したチーム力がおありの山中先生だからできるのでしょうが、研究成果を実用化したり、大きな研究所のマネジメントをなさるのは、ノーベル賞を獲得するのとはまた違う能力が必要ですよね。山中:そうですね。研究にはいろいろな段階があって、基礎研究というのは0から1を作り出す研究。iPSができるまでは、僕は基礎研究者で最初は1人、その後も5~10人の小グループで行いました。でもその1を10にし、10を100にしという応用研究になると基礎研究者とは違う才能が必要になります。さらに100を1000にという 実用化への段階となると、患者さんを診ている臨床医や、特許や 生命倫理の専門家、研究内容を社会に発信するコミュニケーターなど、いろんな人材がいないと、1を10に、10を100に、そして1000にとは行かない。そこで必要になるのが「チーム」なんです。理事長:グループとチームは違うんですか。山中:グループは、基礎研究者のグループというように同じような人が集まったもの。チームというのは、色々な違う才能の人たちが集まって構成するもので、グループとチームは明らかに違うと思う んです。基礎研究者だった僕に、チームを作るっていう課題が いきなり降ってかかったような。理事長:0から1を生み出す能力と、1を100、1000にしていく能力は、まったく別の才能だと思いますから、通常は別の人が担当すると思うんですが。山中:だから、僕も本当はやりたくないんですよね。0から1をやりゼロ一人では社会を変えられない。必要なのは多様な「チーム」の力多様性とは、強靭で豊かな未来を生む母。均一的な教育は効率的ですが、“違い”があるからこそ広がり、深くなる。—畑 恵

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