作新アカデミア・ラボ
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35けれど、今は治らない、治せない患者さんを将来治す可能性がある。学生時代に考えていた自分の将来とは、全然違うことを今やってるんですね。理事長:実は、先生が研究者という新たな道を選ばれた同じ年に、私もNHKを退局しフリーランスのキャスターとなりました。その3年後には文化政策や文化行政を学びに、パリへ留学。帰国後、文化予算の増額を国会議員に陳情したところ、「そんな金にも票にも ならないこと、(国会に来て)自分でやったら」と言われまして。結局、国会議員になりました。山中:国会では、研究成果が海外に流出してしまわないよう、 基礎研究から実用化まで一貫した日本の科学技術体制を整備 することに取り組まれていましたよね。理事長:山中先生からもご指導をいただいて、議員立法を目指したのですが。そういう自分が、今は教育に携わっているのも不思議な話だと思います。山中:割と日本の文化、社会というのは、直線型と言いますか。 あまり変えない、この道一筋何十年という人が尊敬される。それは非常に良いことだとも思うんですが、アメリカには直線型の人と同じくらい、クルクルやることを変える人も多い。僕は、「回旋型」って呼んでるんですけど。理事長:先生も螺旋階段を上るよう華麗な転身をされ、ノーベル賞という頂点をきわめられました。山中:いえいえ。僕も同じことをずっとやっていると飽きちゃうというか。ただ、それは日本の文化とは相いれなくて、すごく引け目があった んです。でもアメリカに行くと、面白い人がいっぱいいた。例えば、iPS細胞のような新しい技術に、直線型がほとんどの日本人は 飛びつかないんですね。アメリカは両方のタイプがおられるんで、 回旋型の研究者はパッと今までの研究が残っていても飛びつく。 だから、その研究がどっちに転んでも、アメリカはうまくいく。 アメリカの多様性ですね、多様な人を認める強さというか。理事長:アカデミア・ラボという建物も、直線を極力使わないで ほぼ曲線でできてるんです。階段も螺旋階段ですし。均一で直線的な方が、教育現場も効率的ではあります。でも作新には、幼稚園 から大学・大学院まで幅広い年齢層の子どもたちがいて、東大・京大に入学し医師や官僚になる子もいれば、オリンピック選手に なる子もいる。商業や工業系で学んで、地域を支える礎になる子も大勢います。山中:今、学校に必要なのは、直線型と回旋型、両方いて良いんだというふうに育てることですよね。絶対、両方の生徒さんを育ててほしいです。理事長:日本の学校教育全体で、取り組むべきことですね。自分も回旋型で職業は色々変わりましたが、振り返ると“思い”は常に 一つだった気がします。ほんの少しでもいいから世の中を良い方向 に変えたい。そこは死ぬまで変わらないと思います。いしずえ10年後が予測できない世の中ですから、「直線型」だけでなく「回旋型」の人材も大切。ラボでは、回旋型人材をどんどん輩出してほしい。—山中伸弥氏

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